<そのとき、おとなりで>
さて、お隣の奥さんの用事とは、なんだったのでしょうか。
この日、お隣の奥さんは、自宅にいました。
そして、リビングのテーブルの向かいに、無表情で座っているアンシェルを、
なんとも言えない表情で見ていました。
ちなみに旦那様は、アンシェルが来る前に、「奴がいると子どもの教育に悪い」と言って、子ども達をつれて出掛けていました。
「…しっかし、本当に馬鹿よねぇ」
「そうだな」
アンシェルは否定することなくあっさりと肯定しました。
「本当は楽しみにしてるんでしょう?ヒナのことは」
「100%、そうとは言えない」
抑揚なく言うアンシェルに、
「あら、何がひっかかってるのかしら?」
奥さんが訊きました。
アンシェルは一度ため息をついてから、
「私が父親になれると思うのか?」
と下を向いたまま言いました。
「なれるんじゃないの?」
奥さんは即答しました。そして、
「うちのも似たようなこと言ってたわよぉ、そう言えば」
と、けらけら笑いながら言いました。
「子どもができたとわかった時のあの不安…お前にはわからないだろう」
「あ、今の一字一句、うちのが言ったのと変わらないわ」
「………」
アンシェルは黙り込みました。
「まぁさすがに、『食べる』とは言わなかったけどね」
こんなに捻くれてる人が夫だと、ソロモンも大変ねぇ、
うちのは可愛いだけだけど。
と奥さんは本当に同情を込めたように言いました。
「だいたいね、アンシェル」
奥さんは、表情を厳しくして言いました。
「今一番辛いのが誰か、あなたわかってるしょ?」
アンシェルは何も答えません。
「あなたが支えないで、あの子のこと、誰が支えるの?」
その時、ドアが開きました。旦那様でした。
「なんとも情けない光景だな」
旦那様は、下を俯いて黙り込んでいるアンシェルを見て、そう言いました。
「あらぁ、その台詞あなたが言うの?」
旦那様は無視してドアを閉めました。
「子ども達はジョージのうちに置いてきた。…子ども同士で盛り上がってしまってな。後で向かえに行く」
そう言いながら、旦那様も椅子に座りました。
しばらく誰も喋りませんでした。
「アンシェル、今はソロモンのそばにいてやれ。それだけでいい」
落ち着いた表情で言う旦那様を見て、
(自分だって、てんてこ舞いだったくせに…格好つけちゃって…)
奥さんは口にださずに、心の中で爆笑しました。
「何かあれば我々がいる。それを忘れるな」
旦那様のその言葉を聞いて、奥さんは思わず吹き出しました。
「…なんだ?」
真面目な話をしている時に不謹慎だぞ、と言いたげに旦那様は奥さんを見ました。
「なんでも…まぁ、アンシェル、たしかにジェイムズの言う通りよ」
「……しかし……」
「自信持ちなさいって。だってあなた、あんなに純粋な子に好かれる男なのよ?」
そう言ってから、意味ありげに、奥さんはアンシェルを見つめました。
「私もあなたのこと、好きだし?」
旦那様が不自然に大きい咳払いをしました。
「やっだぁ、嫉妬してるの?」
奥さんが嬉しそうにそう言うと、
「何も言ってないだろう」
旦那様は仏頂面で答えました。
それからしばらく三人で話してから、アンシェルはソロモンが待つ家へと帰っていきました。
<せかいでいちばん、たいせつなふたり>に続きます♪
兄さん碇ゲンド●症候群…!!
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