<せかいでいちばん、たいせつなふたり>
ぱりぱり。
アンシェルが奥さん達と話している頃、ソロモンの足元で、
卵が中からつつかれて、少しずつ、少しずつ殻が剥がれていました。
まだ空いている穴が小さいので、ヒナは見えません。
それでもソロモンは、羽毛を持ち上げて、卵に微笑みかけていました。
アンシェルのことがまだ心配ではあったけれど、ヒナを笑顔で迎えてあげたかったのです。
ぱりぱり。
ヒナは懸命に、中から卵をつついていました。
たいぶ穴が大きくなって、ヒナの顔が見える、という時。
玄関のドアが開きました。
アンシェルでした。
ソロモンは反射的に卵を羽毛で包みました。
「兄さん……!」
ソロモンは慎重に後退します。
「ソロモン…」
アンシェルは何か言おうとするのですが、警戒しているソロモンを前に、
何も言い出せませんでした。
ドアを後ろ手に閉めれば、その音にソロモンはびくりとして、
また後ろに下がってしまいます。
にらみ合いが続きました。
それからどれほど時間がたったかはわかりません。
そうやって二人とも全く動きません。
その時でした。
ソロモンの足元から、ヒナが顔をだしました。
あ、とソロモンが声をあげた時には、ヒナはソロモンの羽毛から飛び出していました。
少しきつめの、大きな目を持つヒナでした。
ソロモンが止めようとした時にはもう遅く、
ヒナはよちよちと、アンシェルの方へ歩いていってしまいました。
アンシェルはその場でしゃがむと、ヒナを手のひらに乗せてやりました。
ソロモンは動くことも出来ず、恐怖で顔を凍りつかせています。
ヒナは、アンシェルの手の上で、何回かぱちぱちと瞬きをしました。
そして、安心したように腰を降ろすと、
にぱ。
と、はじける様に笑いました。
つられて、アンシェルも笑いました。
とても幸せそうでした。
ソロモンはその光景を、しばらく不思議そうに、
唖然として眺めていましたが、
アンシェルが幸せそうに笑っているのを見て、
全てが、わかりました。
アンシェルとソロモンは、互いに歩み寄りました。
アンシェルが降ろしてやると、ヒナはまた、暖かいソロモンの羽毛の中へと戻っていきました。
そして、首だけ外にだして、気持ち良さそうに目を閉じます。
そんなヒナを見てから。
アンシェルとソロモンは見つめ合いました。
二人とも、穏やかに微笑んでいました。
END
ももももももももも………!!!(声にならない謎の叫び)
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