<姫と騎士の夏休み>
透き通った海水のうちよせる砂浜が、情け容赦ない日光に照らされて白く輝いていた。
潮騒だけが聞こえる貸切りにされたそのビーチには、ぽつんとたった一つのビーチパラソルがあるだけ。その下では水色のセパレート水着にパレオを巻いたディーヴァが寝そべっていて、その隣では水着姿のアンシェルがディーヴァの為に飲み物をいれている。
その様子を、すぐそばのホテルの二階から二つの影が睨みつけていた。
「カール、いい加減にしなさいよ~。ジェイムズぅ、あんたもーー。二人とも暑苦しいから、アオザイとスーツを着替えなさいよー」
「そうですよカール。少しは楽しみましょうよ~~」
呆れたように言うネイサンとソロモンを無視して、ジェイムズとカールが窓に張り付いていた。二人はアンシェルがディーヴァに飲み物を渡す様子を、人生全ての憎しみを露にしたような顔で見つめている。
『私の役目を……っ!』
男二人の壮絶な嫉妬心がどろどろとしたオーラを発する中、
「…水着どれにしようかしら…」
ネイサンは、無関係といった感じで水着を選んでいた。
スーツケースに何十着も入っている派手な水着を見て、
「随分持ってきたんですね」
ソロモンが感嘆の声をあげた。
「なかなか一つに選べなくってねぇ~ねぇ、ジェイムズぅ、どれがいいと思う?」
話をふられたジェイムズは、全くネイサンの声など聞こえてない様子で、窓の外を見ていた。
「ねぇねぇ、ジェイムズったら」
ネイサンは悩ましげな水着を手にしながら、ジェイムズの名を呼ぶ。
「もう!まぁいいわ。…ところで、ソロモン。あなたはどうするの?」
「そうですね…たまには泳ぐのもいいかもしれません。一応水着も持ってきてますし」
「ちょっと潜ってみない?」
二人で相談していると、
『アンシェルーーーーーー!!!』
憎しみのこもったカールとジェイムズの叫び声と、壁のきしむような音がした。
「もう、どうしたのよ?壁を壊さないでよね」
ネイサンが文句を言いながら、窓から外を見ると、アンシェルがディーヴァの背にサンオイルを塗っていた。
肩を震わせながら、窓からすっ飛んでいくまでのカウントダウンが始まった二人を、
「はいはい。あんたらは窓から離れる!!」
ネイサンが、ジェイムズの服を左手で、カールの服を右手で掴んで窓から引きずり離した。
「放せネイサン、私のディーヴァが…!」
「ママがアンシェルの手に堕ちているのだぞ…!!」
「…ちょっとは口閉じろお前ら」
「……」
「……」
「うわぁぁ…これはまたすごいですね」
ネイサンの言葉で静かになった二人を尻目に、ソロモンはネイサンのスーツケースの中身を物珍しそうに見ていた。その手には黒のビキニパンツがあった。
「ああ、それ?自分の体に相当自信がないと絶対に着れないわよぉ。じ・つ・は、ジェイムズの為に買ってきたの。彼、絶対似合うから」
ジェイムズは冷や汗をかきながら、
「バカンスに来ているのはディーヴァであって、我々ではない。我々まで遊んでどうする」
いつもの自分のペースを取り戻そうと、威厳ある口調で言った。
「いいのよ、ディーヴァにはアンシェルがべったりなんだから」
「ふん。私は見回りをしてくる」
「ちょ~っと待った!」
「今度はなんだ!」
苛々と言うジェイムズに、
「まさかその黒スーツのまま歩き回る気じゃないでしょうね?」
「ジェイムズ、それはまずいと思いますよ。ディーヴァにも暑苦しい、って言われたじゃないですか」
ネイサンとソロモンが同時に言った。
「…うっ…」
たしかに少し前、ジェイムズはディーヴァに「暑苦しい」と言われていた。
「では、何を着ろと…」
「これです」
真顔でソロモンが渡してきた服を見ると、それは水色地に大きなハイビスカスがプリントされたアロハシャツだった。
「………」
「それぐらいなら普通に観光客よね」
「そうですよね~いいデザインだと思いますよ」
にこにこと笑う二人を前に、
「は!?そうだカールは!カールは何を着るんだ!?」
ジェイムズが助けを求めるかのように、見回すと、
「あら、そういえばカールは?」
「さっきまでそこにいたんですが…」
カールがいなくなっていた。
「遅いぞお前達…私の準備はとっくに終わった」
そう言いながら、ドアを開けて入ってきたカールを、3人はそれぞれの驚きの表情で見ていた。
一人は意外そうに、一人は心底嬉しそうに、一人は絶望したように。
「どうした?」
カールが不思議そうに聞く。
カールは赤いサンバイザーにサングラス、真っ白なプリントTシャツの下に、膝の少し上ぐらいまである黒ベースの海水パンツ、そして、ビーチサンダルという姿だった。髪は首にかからないようにまとめてある。右肩にはアイスボックス掛けていた。
「やる気満々ねカール」
「夏満喫ですね。カール」
「当たり前だ。来たからには楽しむ」
カールは誇らしげに言った。
「貴方にしては珍しいその夏らしい露出度が素敵ですよ。特に脚が……」
「うるさい。…そんなことより、準備がまだなら私は先に行くぞ」
「ああ、ちょっと待ってくださいよ。すぐに準備しますから」
ソロモンはバッグを急いで空けながら、にんまりと黒い微笑を浮かべていた。
(ここはもう、カールを木陰に連れ込むしかっ…!!)
(ディーヴァにアイスキャンディーを渡す…!!)
(さて、いつジェイムズにこの水着を着せようかしら…?)
(………)
それぞれの想いが交錯する中、
アンシェルとディーヴァが海で楽しそうに泳いでいた。
おわり♪
兄さんの水着を詳細に描写する勇気がなかった管理人をお許しください…!!
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